原画情報: |
82×65cm 1770-1772年 ワシントン・ナショナル・ギャラリー・オブ・アート |
作者紹介: |
ジャン・オノレ・フラゴナール(Jean Honoré Fragonard、1732年4月5日 - 1806年8月22日)は、ロココ期のフランスの画家。
西洋美術史において、18世紀はロココの世紀であった。フラゴナールは、その18世紀の後半のフランスを代表する画家である。フランス・ロココ美術の典型的な画家であるとともに、時代の変化のなかで、ロココ時代の最後を飾った画家ともいえる。
生涯
1732年、コート・ダジュール(南フランス)のカンヌに近いグラースで、皮手袋製造業を営むイタリア系の家庭に生まれた。1738年、家族とともにパリに出て、シャルダンとブーシェという、作風の全く違う2人の巨匠に短期間ではあったが師事した。20歳の時にローマ賞(フランスのアカデミー主催コンクールの1等賞で、受賞者は国費でローマ留学ができた)を受け、ローマで学ぶことになる。
1767年頃、画家としての絶頂期に描かれた『ぶらんこ』は、庭園に設けられたぶらんこに乗る若い女と、それを低い位置からのぞき見る、愛人の貴族男性を描いたものである。ひとつ間違えば下世話になりかねない主題を品良く描いている。
しかし、ロココ絵画のこうした軽薄な画題は、ディドロらの百科全書派の批判を招いた。そして、1789年のフランス革命による体制の大変革とともに、時代の好みも変わり、ロココ美術も次第に下火になっていった。フラゴナールは、19世紀まで生き延びるが、晩年はルーヴル宮殿の収蔵品の整理などをしながら、失意と貧困のうちに亡くなったという。
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作品紹介: |
本作は、おそらく室内であろうと推測される場所で静かに本を読む若い女を真横から捉え描いた作品である。本作のモデルに関しては一般的に不明とされるものの、一部の研究者からはフラゴナールの妻の妹で画家の弟子(そして愛人)でもあったマルグリット・ジェラールとする説も唱えられている。本作の様に書物や手紙を読む女性の姿を画題とした作品は、17世紀オランダ絵画黄金期を代表する画家フェルメールの有名な作品『窓辺で手紙を読む女』や『青衣の女』など当時は既に比較的ポピュラーな画題であったものの、しばしば印象派的と喩えられる本作の技巧的表現や画題への斬新なアプローチには注目すべき点は多い。画面中央に配される若い女は静謐な雰囲気の中、左手で持つ書物に視線を落とし、読書(書物の内容)に集中している。豊かな量感によって描かれる女の姿態は余計な力みを一切感じさせず、やや脱力的に扱われながらも、全体としては気品の高さを強く感じさせる。特にこの若い娘の微かにあどけなさの残る端整な横顔や、憂いにも似た複雑な感情を思わせる瞳の表情は特筆に値する出来栄えである。また技巧的な要素を考察してみても、素早く流れるかのような軽快でやや大ぶりの筆触によって描写される若い女の瑞々しい肌や髪の毛の表現や、身に着ける黄色の衣服と暗深な青緑色の背景との色彩・明暗的対比からは画家の優れた力量を存分に感じることができる。 |