原画情報: |
50×61cm 1876年 オルセー美術館 |
作者紹介: |
アルフレッド・シスレー(Alfred Sisley, 1839年10月30日 - 1899年1月29日)は、フランス生まれのイギリス人の画家。
シスレーの900点近い油彩作品のうち大部分は、パリ周辺の風景を題材にした穏やかな風景画で、人物、室内画、静物といった他のジャンルは全て合わせてもおそらく20点に満たない。他の印象派の画家の多くが、後に印象派の技法を離れたなかで、シスレーは終始一貫、印象派画法を保ち続け、もっとも典型的な印象派の画家といえる。1900年頃、アンリ・マティスがカミーユ・ピサロに会った際、マティスが「典型的な印象派の画家は誰か?」と尋ねると、ピサロは「シスレーだ」と答えたという。
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作品紹介: |
本作は同時期に制作された『ポール=マルリの洪水』などと同様、1876年に起こったセーヌ川の大氾濫後のポール=マルリの情景を描いた作品である。画面左部分には当時一階がワイン商の家屋、二階が「ア・サン・ニコラ」という宿屋であった建物が斜めに配され、その前では小船に乗る二人の男が(この状況についてのことだろうか)何か話をしている。画面中央から右側にかけては中景に栗の木が、遠景にはおぼろげな並木が水平に描かれ、その中を一艘の小船が進んでいる。画面下部に広がるセーヌ川から溢れたポール=マルリを覆う水面に反射する、ゆらめく陽光の繊細で柔らかな表現や、やや大ぶりの筆触と、濁色的でありながら軽快な色彩による川の状態表現は画家の様式的特徴が良く表れている。さらに画面の約三分の二の面積を使用される広々とした空の清涼感に溢れる鮮やかな色彩と空間的な開放感には、この洪水によって一変してしまったセーヌ川やポール=マルリの姿、そしてそこで生活する様々な人々の日常とは対照的に、何事においても犯されることのないある種の不変性を感じさせる。本作で表現される(洪水という)自然の驚異とそんな状況下でも逞しく生活する人々、作品全体から醸し出される(あたかも嵐の後のような)静謐な雰囲気と詩情性は、全部で6点制作された同画題(氾濫後のポール=マルリの風景)の作品の中でも特に秀逸の出来栄えであり、観る者の目と心を強く惹きつける。 |
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